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名古屋地方裁判所 昭和43年(ワ)1131号 判決

破産者総合地所開発株式会社債務者加古新平承継人

破産者総合地所開発株式会社破産管財人

原告

桜川玄陽

被告

福岡金丸

代理人

奥嶋庄治郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、原告は「被告は原告に対し金五七八万八、二二〇円及びこれに対する昭和四一年一月一九日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。〈以下略〉

理由

一、まず原告の当事者適格について審案する。

破産会社が昭和四五年四月八日午前一〇時に当裁判所において破産宣告を受け、原告が右同日、右会社の破産管財人に選任されたことは当事者間に争いがない。

しかして本訴は破産会社が破産宣告を受ける前の昭和四三年四月一九日に右会社の債権者加古新平が右会社に対して有する約束手形金債権を保全するために、右会社に代位して提起した訴であつたこと、原告が昭和四六年二月五日本件訴訟手続の受継の申立をなしたことは記録上明白である。

ところで民法四二三条の債権者代位権による訴訟係属中に債務者が、破産宣告を受けたときは、破産者の債権についての管理処分は破産管財人のみがなし得るものと解すべきであるから、民事訴訟法二一四条、破産法八六条を準用して、債務者が破産宣告を受けた時に、右の訴訟手続は中断し、破産管財人において右の訴訟手続を受継しなければならないものと解するのが相当である。そうすると原告は本件訴訟手続において原告適格を有するものといわなければならない。

二、そこで本案について審案する。

(一)  破産会社が被告から昭和四一年一月一九日本件土地を買受けたこと、右売買代金は右同日頃破産会社から被告に対して支払われたことは当事者間に争いがない。

そして〈証拠〉を総合すると昭和四〇年一二月初旬頃破産会社は被告からその所有にかかる本件土地を公簿面積(一三、九〇九坪)に従い、一坪当金一、〇〇〇円とし金二、四〇〇万円で買受ける契約を締結し、その頃手付金として金二〇〇万円を被告に支払つたこと、右残金の支払期日を同月二二日とすることに合意したが、同日までに破産会社は右残金の支払をすることができなかつたので、被告に右同日から一週間の期限の猶予を得たが、その猶予期限を経過しても残金の支払ができなかつたこと、そのため被告において右手付金を没収し、右売買契約は解除したこと、その後昭和四一年一月二九日に再び本件土地について破産会社と被告の間で代金を金二、二〇〇万円と定めて売買契約が成立したものであること、以上の事実が認められ、〈証拠判断・略〉。

(二)  1、しかして原告の本訴請求は民法五六五条、五六三条による売買の目的物の数量不足を理由とする代金減額請求であると解される。

右の請求の前提として同法五六四条の除斥期間の制限があるのでまずこの点について検討する。

加古新平が破産会社に代位して本訴を提起した日は昭和四三年四月一九日であつたことは本件記録上明白である。

そして〈証拠〉を総合すると、破産会社は昭和四一年六月頃本件土地を実測したところ、その面積は18,120.78坪であることが判明したこと、そこでその頃破産会社は被告に対して、右の実測面積が公簿面積よりも約六、〇〇〇坪も少いことを理由として、口頭で代金減額の請求をしたものであること、以上の事実が認められ他に右認定に反する証拠はない。

右の事実関係によれば破産会社は民法五六四条の除斥期間(一年)内に代金減額の請求をしているものということができるから、その効果として生ずる被告に対する債権(不当利得返還請求権と解される)は、右の一年の期間経過後も存続するものであることは明白であり、原告の本訴請求はもとより適法であるといわなければならない。

2 ところで民法五六五条にいう「数量を指示して売買した」とは、当事者において目的物の実際に有する数量を確保するため、その一定の面積、容積、重量、員数または尺度あることを売主が契約において表示し、かつこの数量を基礎として代金額が定められた売買をいうのである。しかして土地の売買において目的物を特定表示するのに、登記簿に記載してある字地番地目及び坪数(面積)をもつてするのが通例であるが、登記簿記載の坪数は必ずしも実測の坪数と一致するものではないから、売買契約において目的たる土地を登記簿記載の坪数をもつて表示したとしても、これでもつて直ちに売主がその坪数のあることを表示したものということはできない。

本件においてこれをみるに〈証拠〉によると、右の契約書には売買物件として本件土地が登記簿の記載に従つて表示されており、その売買代金として「金二、二〇〇万円」と記載されているのみであること、そして更に右の契約書には特約として「現地は現状のままとして双方これを認め、実地過不足は異議なきことを確約す」なる旨が記載されていることが認められる。しかして右の特約がなされた理由は〈証拠〉によると、本件土地について実測も境界の確認もしていないので、後日そのような問題で紛争がおきるのをさけるためであつたことが認められ右認定に反する証拠はない。

更に〈証拠〉によると破産会社は土地の売買を業とする会社であつたこと、同会社は本件土地を契約前に実地測量をしていないこと、同会社としては右売買契約当時すでに本件土地を分譲する手続を開始していたので、どうしても本件土地を必要とする事情にあつたことが認められ他に右認定に反する証拠はない。

3 右の事実関係によると破産会社は土地の売買を業としていた会社であるところ、本件土地の買主である破産会社において右土地が登記簿に記載されたとおりの実測面積があるものと信じ、また売主である被告においても、右土地の実測面積が登記簿に記載された面積より少くないことを認め、これを基礎として売買代金を定めたものということはできない。

なお本件においては本件土地の実測面積が18,220.78坪であり登記簿に記載された面積は二三、九〇九坪であつて、前者が後者よりも5,788.22坪も少いことは前記のとおりであるが、これは前記事実関係に照すと土地売買業者である破産会社において負担しなければならない損害であるといわなければならない。

三、してみれば原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないから、失当として棄却するべく、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。(高橋爽一郎)

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